脇役だって、恋すれば

 新涼くんは口の端を引きつらせ、やっと椅子に腰を下ろした。ちょいちょい紛らわしい社長……もしや私たちの反応を見て面白がっていたりして。

 私もちょっぴりほっとしていると、社長の笑みに真面目さが加わって話を始める。

「だから手放したくないんだが、最近青羽を引き抜こうとするゲーム会社の輩がいて困っているんだ。もしかしたら芦ヶ谷さんも、誰かに頼まれて青羽をそそのかそうとしてるかも……なんて可能性もゼロではなかったから、ちょっと確かめたくなってね」
「そうだったんですか……!」

 私が誘われたのには思いもよらぬ理由が隠されていたらしいので、目をしばたたかせた。

 新涼くんはヘッドハンティングされそうになっているのか。彼のようなシナリオライターが欲しいところは多いだろうし、それ自体は不思議ではない。

 私が疑われていたのには驚くけれど、違和感があったこの食事会の意図がわかって納得した。

「でも、やっぱり君に悪意はなさそうだ。疑って申し訳ない」

 なにが決め手だったのかはわからないが、私への疑惑は晴れたらしい。潔く頭を下げる社長に、私が「いえ」と首を横に振るも、新涼くんはややむすっとした顔で腕を組む。