脇役だって、恋すれば

 なにを話すかも考えていないのに、身体が勝手に動いていた。どうしてこんなに会おうとしているんだろう。自分でもよくわからないけれど、ただ直接顔を見て言葉を交わしたい。

 心のままに追うと、彼はワークスペースらしき個室に入ろうとしたので、少し距離があるものの口を開く。

「新涼く──」
「芦ヶ谷さん?」

 呼び止めようとした瞬間、後ろから逆に私が呼ばれて思わず振り向いた。

 こちらに近づいてくるのは、一般社員とは違ったオーラを放つ須栗社長だ。堅苦しさのないカジュアルスーツを纏っているが、洗練されていてモデルのよう。

 さすがに無視するなんて失礼なことはできず、彼のほうに向き直って頭を下げる。

「須栗社長! 先日はありがとうございました」
「いいえ。打ち合わせは終わってしまったか。もう少し戻るのが早ければ皆さんにご挨拶できたのに」
「皆、社長に会いたがっていますので、次回はぜひ」

 正直ちょっぴり残念な気持ちをひた隠しにして、当たり障りのない会話をしていると、社長は突然話を変える。

「ところで今夜だけど、芦ヶ谷さんはなにか予定ある?」
「いえ、今夜は特に」
「なら、僕と食事をしに行かないか? ふたりで」

 にこりと魅惑的な笑みを浮かべてそう言われ、ぱちぱちと瞬きした私は「はいっ!?」と声を裏返らせた。