脇役だって、恋すれば

 開催場所を決めるところから始まり、予算に合わせた会場の設営や演出などを考えていく。初回である今回は大まかな要望を聞き、これから何度か打ち合わせをしてすり合わせていく予定だ。

 この打ち合わせに須栗社長と新涼くんの姿はなかった。社長はどうやら出先にいるようで、時間が間に合えば挨拶をしたいと言っていたそう。

 新涼くんはシナリオライターなのでイベント事に関わらないのはわかりきっていたのに、ほんの少しだけ会える可能性を期待してしまった自分が恨めしい。

 結局、彼を見つけられないまま打ち合わせは終了。担当のふたりもとても愛想がよく特に揉めることもなく終えられたので、ほっとしながら三人でオフィスを後にする。

 しかしエレベーターに乗る直前、すらりとした長身の男性が歩いているのを視界の端に捉えた。

 振り向いてよく見るとやはり新涼くんで、目を見開いた私は咄嗟に部長に声をかける。

「すみません、先に戻っていてもらえますか? 知り合いがいたので、挨拶したくて」
「おー了解。もう昼だし、俺たちも適当に飯食って戻るわ」

 ノリのいいイケおじ部長が快くそう言ってくれたので、私はぺこりとお辞儀して踵を返した。