脇役だって、恋すれば

 以前はよく姉から直接頼まれた。『サイン会とかファッションショーとか、いつか香瑚にお願いしたいな』と。

 最近言われなくなったのは、私が乗り気ではないことに彼女は気づいているのかもしれない。

 一方の母は毎度こんな調子なので、私はそのたび適当にはぐらかす。

「ああ、イベントね。善処します」
《それ結局やらないやつでしょ! もう、このやり取りも何回目よ》

 母の的確なツッコミに乾いた笑いがこぼれた。母も姉も嫌いなわけではないのに、距離を取ろうとしてしまう自分は薄情だろうか。

 心ここにあらずといった調子で母の声を聞きながら、壁を彩る美しい異国の風景を眺めていた。



 それから、しばらくして新涼くんからメッセージが送られてきた。内容はたわいないものだったけれど、高校時代にタイムスリップしたようで、少しくすぐったくて切ない複雑な気分になった。

 仕事のほうでは、さっそく営業部のほうにライトフルの件を伝えた。返事はもちろんOKで、どうやって須栗社長から依頼を受けたのかと興味津々に聞かれたのは言わずもがな。

 こちらが連絡した時には、ライトフルのほうでもすでに社長が話を通していたようで、とてもスムーズに打ち合わせの日が決まった。