脇役だって、恋すれば

 母との電話があまり気乗りしないのは、必ずと言っていいほど姉の話題になるから。彼女の活躍は本当にすごいし、もちろんめでたい話なのだから報告したいだろうけれど、そのたび私は複雑な気分になる。

 なんだか姉がどんどん手が届かない世界の人になっていって、自分だけ取り残されているような気がする。両親もそんな彼女ばかり褒めているんだろうなと、想像してしまって虚しくなる。

 こうなるのが嫌だから姉の話は避けてしまうし、自分のほうが遠くへ行きたいと思うのだ。

 壁に飾った、サントリーニ島やフランスのコルマールの写真に目をやる。高校時代から、私が亜瑚の妹だと知っている人が誰もいないところへ行きたいと思うようになっていて、それはいつしか海外への憧れに変わっていた。

 独学で英語も勉強している。ゲームの他に熱心になれるのはそれくらいだ。

 いつか海外で、誰からも干渉されず静かに暮らしてみたい。その夢は今も密かに私の胸に眠っている。

《亜瑚はやっぱり、香瑚にイベントの企画をしてほしがってたわよ。いつになったら実現するのかなって、私も待ってるんだけど》

 逸れていた思考が母の声で引き戻される。