脇役だって、恋すれば

 そうか、これから新涼くんとも一緒に仕事することになるかもしれないんだ。さっきまであんなに気まずかったのに、今はもう楽しみな気持ちが勝っている。

 彼の仕事ぶりを間近で見られるかもしれない期待も入り混じり、「こちらこそ」と笑顔を返した。

 仕事の話をしているうちに、私が暮らす三階建てのマンションに到着した。築年数は結構経っているが、一度リフォームされているので比較的綺麗で気に入っている。

 須栗社長に丁重にお礼を言い車から降りると、新涼くんも反対側から降りてきて「芦ヶ谷」と私を呼び止めた。

「また職場で会うことになりそうだけど、さっきなにか言いかけただろ。大事なことなら聞かせてほしい」
「あ……」

 そういえば途中だった。でも、社長を待たせている状況でできる話ではない。

 真剣な面持ちの彼を見ると、さっきの言葉を思い出して緊張感が舞い戻ってくる。完全にタイミングを逃してしまったなと、残念な気持ちになりながらもえへへと笑ってみせる。

「たいしたことじゃないから、大丈夫」
「本当に?」
「ほんとほんと」

 それでもいまいち腑に落ちない様子の新涼くんは、ほんの少し考えを巡らせるようにしてから口を開く。