脇役だって、恋すれば

「僕が送るからふたりとも乗っていきな。お邪魔虫にはなるが、この調子じゃバスに乗れるまでにあと二時間はかかるだろうし、彼女に風邪ひかせたくないだろ?」

 思わぬ提案をされ、新涼くんと顔を見合わせる。本当に助けてくれるハイスぺ男子が現れた……。

 とてもありがたい話なのに、新涼くんはやや不服そうな顔をしている。ふたりきりでないと話ができないからなんだろうけれど、このままだと私に上着を貸してくれている彼のほうが心配だ。

「私が上着奪っちゃってるから、新涼くんのほうが風邪ひいちゃうよ。お言葉に甘えさせてもらおう?」
「俺は大丈夫だけど、確かに芦ヶ谷に無理させたくないしな」

 ひとつ息を吐いた彼は、須栗社長に「お願いします」と頭を下げ、私の背中にそっと手を当てて後部座席のほうへ促した。

 暖かい車内に乗り込んで上着を返し、私は改めて自己紹介をした。須栗社長のやや色素の薄い瞳とミラー越しに目が合う。

「芦ヶ谷さん、グランウィッシュに勤めてるのか。ウチもだいぶファンがついてきて、イベント事も積極的にやっていきたいと思ってるから、今度仕事を頼もうかな」
「はい、ぜひ! 御社のゲームは大人気ですし個人的にも大好きなので、ご一緒できたら光栄です」