脇役だって、恋すれば

 私は恥ずかし紛れに両手の人差し指と親指で丸を作り、目に当ててあははと笑ってみせる。

「まあ、昔はこんな眼鏡にきっちりポニーテールだったからね。それに比べればマシになったかな」
「確かに、あの頃は超真面目な地味子ちゃんって印象だった」
「でしょ」
「でも、他の人にはない魅力があったよ」

 どきりとするひと言が投げかけられ、笑顔が作れなくなっていく。

「字を書く時の姿勢とか、食べ方とか、相手をまっすぐ見る目とか。すごく綺麗だと思ってた」

 私だけをその瞳に映して告げる言葉に、心臓が大きく揺れ動いた。甘くて苦い感触がまざまざと蘇る。


 ──『他の誰かじゃなくて、芦ヶ谷がいい』

 ふたりきりの教室でそう言ってくれたあの日、気がついたら整った顔が目の前にあって、柔らかな唇が触れていた。

 まさかキスされるなんて思わなくて、一瞬思考が完全に停止した。ただ、今の言葉も、重ねられた手や唇も温かくて、真っ先に嬉しいという感情が湧いてくる。

 初めてのぬくもりに、自然に涙が込み上げた。けれど──。

『芦ヶ谷と仲よくするメリットなんて、亜瑚のことくらいしかないもんな』

 嘲るような男子の声が頭の中に蘇る。その瞬間、涙が塩辛いものに変わってぽろりとこぼれ、同時にぐいっと彼の胸を押し返した。