脇役だって、恋すれば

「寒いだろ。これ着な」
「あっ、大丈夫だよ!」
「いいから」
「……ごめん、ありがとう」

 こちらがなにも言わないのに察して荷物を持ってくれたり、上着を貸してくれたり、本当に気遣いのできるいい男だ。

 高校の時からそうだったな。あまり感情を表さないわりに、態度や言葉はストレートで、無関心そうでいて周りをよく見ていて。そういうところが、大好きだった。

 昨日のことのようにときめきが蘇ってきて、ふんわりとシトラスのような香りがするジャケットの襟をきゅっと掴む。

 視界には予想通り長蛇の列が見えてきた。バスを待つ人たちの最後尾に並び、隣をちらりと見上げると、彼は涼しげな顔で少しネクタイを緩めている。

 ドット柄だと思っていた藍色のネクタイは、近くでよく見ると星柄で遊び心がある。センスいいな、なんて思いながら眺めていると、優しげな瞳がこちらに向いた。

「芦ヶ谷は仕事なにしてんの?」
「あ、グランウィッシュっていうイベント会社に勤めてるよ。この間、国際会議場でやったゲーム会社のイベントを手がけたのもウチ」
「てことは、もしかしてあの時いた? 芦ヶ谷に似た人がいるなと思ってたんだけど」

 やっぱり目が合ったあの時、私だって気づいていたのか。なんとなく運命的なものを感じながら、こくりと頷く。