脇役だって、恋すれば

 終日ということはバスかタクシーで帰るしかないけれど、皆同じことを考えているだろうから長く待つことになりそう。送迎してくれる車持ちのハイスぺヒーローが颯爽と現れてくれたら最高だけれど、あいにくそんな知り合いはいない。

「えー、困ったなぁ……」
「どうかしましたか?」

 思わず天を仰いで情けない声を出した瞬間、横から男性に声をかけられてはっとした。咄嗟に表情を明るくし、背の高いその人を振り仰ぐ。

「あっ、いえ! なんでも──」
「……芦ヶ谷?」

 彼の顔を認識すると同時に名前を呼ばれ、私は目を見開いて息を呑んだ。

 無造作なナチュラルショートの髪、爽やかさのある整った綺麗な顔……数週間前に見たあの人が、今目の前にいる。

「新、涼くん……!?」

 嘘……こんな偶然がある? まさかまた再会するなんて! しかも、彼も私のことを覚えていたんだ。

 気まずさと、ほんの少しの嬉しさが混ざり合い胸がいっぱいになる中、新涼くんも口元に軽く丸めた手を当てて驚きを露わにする。

「びっくりした。似てるなとは思ったけど、本当に芦ヶ谷だったとは」
「私もびっくりだよ。……あの、お久しぶり、です」
「なんでそんな他人行儀?」