脇役だって、恋すれば

 にこりと微笑む彼に、俺は口の端を引きつらせた。やっぱり腹黒い部分があるんだよな、この人……。

「でも、香瑚ちゃんも青羽に惹かれてるのは最初からなんとなく気づいてたから、本気にはなってない。彼女にも、一度も好きだとは言ってないから安心して。思わせぶりな言葉はたくさんかけたけど」
「くそ……それだけでも悔しい」

 もし香瑚が、少しでも社長にドキッとしていたらと思うと妬けてくる。「面白かったなぁ、焦ってる青羽を見るの」などと言って無邪気に笑っているのも腹立たしい。

 でも、俺のことを考えてひと肌脱いでくれたこの人には、やっぱり敵わないし憎めない。口元を緩め、姿勢を正して頭を下げる。

「そんなことまでしてくれて、本当にありがとうございます。俺の自由にさせてくれることも」

 社長はふっと柔らかく微笑み、ジョッキを口に運ぶ。

「本音はすごく惜しいけどね。次はどこに行くんだ? 声をかけてきたところ?」
「……いえ、独立を考えてます」

 思いきった決断を口にすると、彼はごくりと喉を鳴らして目を丸くした。