脇役だって、恋すれば

 だが仕事を終える間際、別の社員が藤井さんと同じようなことを言っていたため、急激に焦燥に駆られて会社を飛び出したのだ。

 社長のマンションに向かっている香瑚の姿を見た時は必死で引き留めたものの、結局勘違いだったので心底ほっとした。

 社長に踊らされたのは腹立たしかったが、最愛の人を手に入れられた今、どうでもよくなっている俺は現金な男だと思う。


 藤井さんがオフィスを出ていってからしばらくして、今度は社長がやってきた。チームの皆で情報共有を行うためだ。

 俺はようやくストーリーを作れたので、これから登場人物のセリフや場面変化など細かい部分を練っていく。

 ミーティングスペースでその話し合いを終えた後、自分のデスクに戻る前に社長に声をかけておく。

「週末出かけて、ちょっとした土産があるので後で渡しますね」
「へえ、引きこもりの青羽が土産買ってくるようなところに行くなんて珍しいな」

 気分転換にドライブすることは多々あるので引きこもりは否定したいが、土産を買うのは確かに珍しい。観光も滅多にしないし。

 香瑚がいるおかげでこういう機会が増えそうだと、内心ほっこりしつつ当たり障りなく返す。