脇役だって、恋すれば

 あまりにも悔しくて悲しいと涙も出ない。ただ、私の中でぷつりとなにかが切れたみたいな感覚を覚え、彼のそばにいるのはもう無理だと悟った。

 その数日後、私が日直の仕事で教室に残っていた放課後のこと。

『新涼くん、お姉ちゃんの件はもう大丈夫だから、私のことは気にしないで。話しかけなくていいから』

 普段通り話しかけてきた新涼くんに、皆がいなくなってから淡々と告げた。ちゃんと目を見られないまま。

 胸の痛みを堪え、素っ気なくして学級日誌を書き続けていると、彼はみるみる真剣な表情になっていく。

『……なんで急にそんなこと』
『本当は皆と一緒で、お姉ちゃんみたいな人のほうがいいんじゃないの? こんな地味な女より』

 つい卑下するような言葉が口をついて出る。つらすぎて、〝私を利用してたんでしょう〟とは言えなかった。

 下唇を噛んで俯く私に、彼は少し身を屈めて心配そうに声をかけてくる。

『周りになにか言われたのか?』
『……もう、ほっといて』
『ほっとけない。そんなにつらそうにしてんのに』

 力強い声に押し黙らされる。次の瞬間、ペンを持つ私の手がそっと握られ、心臓が飛び上がった。