脇役だって、恋すれば

 間髪を容れず腕を掴んで声をあげる私に、彼は目をしばたたかせる。

「心配なの。……そばにいさせて」

 懇願するように言うと、驚いていた青羽の表情がゆっくりほころぶ。

「風邪だったらうつるかもよ」
「そうしたら一緒にいた証拠になるね」

 したり顔で口角を上げてみせる私。彼は〝まいった〟というように笑い、額に手を当てた。

「やばい……可愛すぎて倒れそう」
「可愛くないよ。その証拠を藤井さんに見せつけてやりたいとか思ってるもん」

 青羽と同時に風邪をひいた私を見たら、彼女なら一緒にいたと容易に想像がつくだろう。

 今日の仕返しになるな、なんて腹黒いことを考えていると、青羽は「報復まで可愛い」と呟いてなぜか悶えていた。

 この様子だと、藤井さんが嫉妬から意地悪をしたのだと気づいていそう。青羽が彼女に取られなくてよかったとほっとしてしまった。

 結局彼のほうが押し負けた形で、英会話教室はキャンセルすることに。青羽には少しだけ外で待っていてもらい、私だけ中へ入って〝大事な人が具合が悪くなったのでそばにいたい〟と、正直に事情を説明した。

 本当にドタキャンで申し訳なかったのだが、講師のハラルド先生は逆に感動したような表情になり、流暢な日本語で快く承諾してくれた。