脇役だって、恋すれば

 しおらしく頭を下げた彼女は、目線だけ上げてこちらをじっと見る。

〝余計なこと言わないでくださいよ〟と顔に書いてある……なんて強気なんだこの子は。末恐ろしい。

 私と慶吾さんが親密だとあえて青羽に聞かせるところも、悪知恵が冴えている。噂にはなっていないだろうが、先ほど彼と話していた場面を見た人も多いだろうし、藤井さんがでたらめを吹聴すれば本当にそうなりかねない。

 青羽に誤解されたくはない……けれど、今はとにかく彼女を優位に立たせたくない気持ちのほうが勝ってしまう。

「大丈夫ですよ。まったく気にしていませんので」

 これまでの彼女の発言はどれもノーダメージだとアピールしたくて、〝まったく〟を強調してにこりと微笑んだ。藤井さんの綺麗な眉がぴくりと動く。

 すると、青羽はテーブルに片手をつき、訝しげな目で私の顔を覗き込んでくる。

「本当に? 昔と同じような顔してたけど、他にもなにか言われたんじゃないか」

 その言葉に、はっとして真顔になってしまった。

 もしかして、私の表情から異変を察知して来たんだろうか。どうしていつも、困っているタイミングで助けてくれるのだろう。

 こうやって声をかけてもらえただけで、ギスギスした心がほんの少し丸くなった気がして笑みがこぼれる。