脇役だって、恋すれば

「姉に勝ちたいなんて思ったことはありませんよ。それに、降りる気もありません。仕事に私情は持ち込みませんので、ご心配なく」

 これからもビジネスパートナーとしてやっていくのだから、大人な対応をしないと。ちょっと嫌みっぽくなってしまったけれど。

 藤井さんにとったら癪に障るだろう。案の定、再びしかめっ面になって悪態をつく。

「……ムカつく。あなたこそ社長の犬のくせに、偉そうに」
「誰が犬だって?」

 またしてもカチンとくるひと言を呟かれた直後、私たちの横からそんな声が割り入ってきた。

 驚いて振り仰いだ私は、さらに目を見開く。

「藤井さん、芦ヶ谷さんを困らせるなって忠告したよな」

 冷たい瞳で見下ろすのは、話の中心人物である青羽。抑揚のない口調だけれど、無表情から怒気がひしひしと伝わってくる。

 藤井さんもひゅっと息を呑み、「しっ、新涼さん!?」と声をあげた。その顔がさーっと青ざめていく。

 しかし彼女はすぐに言い訳を思いついたらしく、ぎこちなくも自信がありそうな笑みを作る。

「噂になってますよって話をしただけです。社長と芦ヶ谷さんが親密なのは、皆さん気づいてますから。でも、困らせちゃってたらすみません!」