脇役だって、恋すれば


 疑似デート当日の夜、俺は香瑚のマンションの最寄り駅近くに出向き、カフェで仕事をしていた。

 今頃、社長と過ごす豪華なひと時を楽しんでいるんだろうか。悶々としながら進みの遅いシナリオと睨めっこしていた俺は、彼女から【終わりました】というメッセージが届いてすぐにタブレットを閉じた。

 どんな顔をして来るだろう。惚けていたらやばいな、と危機感を持ちつつ対面したのだが、意外にも彼女は疲れた様子だった。

 しかも、バーに誘ったのにただの酒屋でいいと言う。それでは俺の立つ瀬がないと思ったが、彼女が望むのなら仕方ない。

 ずらりと酒が陳列する色気のない店で、お手頃な缶ビール片手に立ち飲みをする。香瑚はそれがとても楽しいようで、気を許した可愛い笑顔を見せていた。

 社長とどんな会話をしてどう過ごしたのか、詳しくはわからない。だが、『自然体でいられる相手とだらだら話をするほうが好き』と言ってもらえだけで優越感を覚えた。俺と一緒にいるほうがいいと感じてくれているなら、最高に嬉しい。

 かく言う俺も、気取らない雰囲気と、学生時代の延長のようでいて確実に大人になった自分たちの会話が心地よかった。

 同時に、ずっと忘れていた胸が弾む感覚も思い出す。彼女といられたら、なにげない日々を何倍も楽しく過ごせるに違いない。