脇役だって、恋すれば

 社長のほうがひとつ上手だったなと悔しさが滲む。いくら疑似とはいえ、金も地位もある大人の男にリードされたら、どんな女性も多少気持ちはぐらつくだろう。

 しかし〝仕事のため〟という建前をうまく使い、デートのすぐ後に会う約束を取りつけた。

 香瑚には大変な思いをさせてしまうが、引いてはいられないんだ。今度こそ、大切な人を逃さないために──。



 新作発表会のゲストで亜瑚さんにオファーを出すと決まったのは、食事会から三日後のこと。グランウィッシュとの打ち合わせを担当している、広報部の藤井さんから聞いた。

 藤井さんは一歳下の後輩で、天真爛漫な人懐っこい子。なぜかよく俺に絡んでくるので、自然に話す機会も多くなっている。キャンキャンまとわりつく子犬のようで、正直ちょっとだけ煩わしい時があるが。

 彼女は、香瑚が亜瑚さんの妹だと気づいている唯一の社員だ。亜瑚さんが好きでよくSNSなども見ているようで、そこから得られる数少ない情報と、香瑚が打ち合わせに来た時に顔立ちが似ていることでピンときたという。

「亜瑚さんオファー受けてほしいんですけど、多忙だから難しいかなぁ。芦ヶ谷さんが妹なら、口利きしてもらえちゃったりしますかね」