脇役だって、恋すれば

 自分の人生は自分のもの。そんな当たり前の権利を主張できなくなっていることに気づき、夢を諦める必要はないのだと思わされた。

 そして、『ふたりでこうしてる今だけは、誰からも干渉されずに自由でいられるね』と微笑みかけられた瞬間、胸が甘く締めつけられた。

 彼女の隣に俺はいてもいいと認められたようでとても嬉しかったし、微笑みの可愛さに心臓を撃ち抜かれたのだろう。このまま時がとまればいいのにと、本気で魔法の力が欲しくなった。

 香瑚はこんなにも素敵な子なのに、自己評価は低めで目立たないように生きている。周りも姉のほうにばかり興味を持っていて、どうして彼女の魅力に気がつかないのか不思議で仕方なかったが、それでもいいと思った。他の男が寄りつかないほうがいい、と。

 実際、彼女の一番近くにいる男は俺だと自負していたし、彼女も俺だけには心を開いてくれているんじゃないかと、少々自惚れてもいた。

 それなのに、ある日突然俺を突き放すような態度へと急変した。なぜなのか理由がわからない。オレンジ色に染まる放課後の教室で、俺は困惑していた。

 どうにか引き留めたい焦りと、驚いて俺を見上げる愛しい顔を目にしたら一気に想いが膨らんで、衝動的に唇を奪っていた。