脇役だって、恋すれば


 ──いつだってそうだ。手を伸ばせばすぐそこにあるのに、あと一歩のところで掴めない。

 他の男のためにおしゃれをした姿で、憂いを帯びた笑みを浮かべて去っていく彼女を、ただ見送るしかない自分にため息がこぼれる。香瑚と亜瑚さんの足音が消えてから、俺もおもむろに来た道を引き返した。

 香瑚と再会してから、高校時代に無理やり押し込めた感情が引っ張り出されて、今や彼女を自分のものにしたい欲求で膨れている。

 今日、あえて須栗社長と会った直後に約束を取りつけたのも、彼女の頭の中を彼のことでいっぱいにさせたくなかったからだ。俺と会うことで、極上のデートとやらの余韻を少しでも薄れさせてやりたかった。

 情けないが、今の俺にはこれくらいのことしかできない。相手が社長では、いくら付き合いが長いとはいえ強く出られないのが会社員のつらいところである。

 それになにより、一番尾を引いているのは高校時代の一件だ。ふたりきりになった放課後の教室での出来事が、今も俺の心に重くのしかかっている。