脇役だって、恋すれば

 その時、ふいに新涼くんの瞳がこちらに向く。その目がわずかに見開かれ、視線が合った気がして、心臓がドクンと大きく揺れた。

 この大勢の人たちの中で、何年も会っていない私なんかに気づくはずがない。そうわかっているのに、視線は逸れることなく絡まり続け、彼はこちらを見つめたままマイクを口に近づける。

「ゲームだけじゃなく、リアルでも同じ。人生という物語の中では、誰もが脇役じゃなく、主人公なんです」

 ……まるで、自分に向けて言われたかのような言葉。どうせ脇役だからとそっぽを向いて生きている私の肩を、とんとんと優しく叩かれる感覚を覚えた。

 振り向いたら冒険が始まるのかもしれない。けれど、今さら荒波を乗り越えてヒロインになりたいとも思わない。

 ほんの少し胸が締めつけられるのを感じたまま、私はまつ毛を伏せて会議室を後にした。