セスにとっては本気だった言葉を受け取ってもらえず、ただ聞き流されていた日々はどんなに胸が痛かったのだろうか。
あの頃から今までのセスのことを思い、私は罪悪感に襲われた。
私はまたセスを傷つけて、セスの必死に伸ばす手を振り払うのか。
「…セスは私の為に全てを捨てられる?」
「…はい」
唐突に問いかけた私にセスが辛そうにだが、迷いなく答える。
こんなにも簡単に答えてしまうようでは、「私の為に死んで」と言っても、「はい」と言われそうだ。
「じゃあ一緒に逃げてくれる?私と逃げることは一生命を狙われる可能性があることだし、今のような立派な立場も職もない、そんなリスクしかないけど…」
もうこれ以上セスを突き放せない。
そう思った私の答えがこれだった。
私と一緒に逃げたってセスにいいことなんてない。
セスは貴族の出身で、ルードヴィング伯爵家の執事で、こんな立派な屋敷まで持っている。
それを私と逃げるということは全て手放さなければならないのだ。
そして何より私と逃げるということは一生命を狙われる可能性が付き纏う。



