悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜





セスに何も言わずに、ここから逃げるように出るつもりはない。
きっとここを逃げるように出れば、またセスは歪み、不安定になるだろうし、何より一生私を追い続けるだろう。

だからこそ私はもう一度全てを話し、セスからの同意を得てここを出るのだ。



「セス」



セスと真摯に向き合う為に、私は前を見たまま声音を変える。先ほどの明るい声とは違い、真剣な声はこれから大切なことを話そうとしているとわかる声だ。



「…ここでの生活は安全で楽しい。だけど私はもっと広い世界を見たい。もっと自分の力で自由に気ままに生きていきたいの。だからここから出て行きたい。帝国外へ行きたい」



話をする私の両手に自然と力が込められる。
一度この話をした時は、全てを否定され、両足を折り続ける宣言をされた。
いくら最近のセスが穏やかだとはいえ、緊張しない訳がない。

私の目の前で風に吹かれて揺れる色とりどりの花たちは、今の私とどこか似ている。
どこへにも行けれない、セスの手によって丁寧に世話された美しいだけのもの。
ここへいればずっと美しく長く生きられるのかもしれないが、自由はない。
あの花も私も閉ざされた世界の住人だ。

セスの次の言葉が怖い。
やはり私を自由にしたのは間違いだったのだとまた自由を奪われるかもしれない。

未だに何も言わず、しまいにはその場で足を止めたセスに、私はずっと緊張していた。
振り向いてセスの様子を窺うことさえできない。