「この屋敷の中で動きたいだけなの。誰だって同じ場所にずっといると気が滅入るでしょ?健康にもよくないはずだよ」
「…」
瞳を伏せたまま、思案を続けるセスの背中を押すように、私はセスに真剣に訴えかける。
私の話を聞いているのかいないのかわからないセスだが、そんなことはいちいち気にしない。聞こえていないのなら聞こえるまで伝えるだけだ。
「セスと一緒に屋敷内を散策してみたいな。ここのことはまだこの部屋のことしか知らないから…」
セスに何とかこの切実な思いを伝えようと、うるうると瞳を潤ませ、上目遣いでセスをじっと見つめてみる。
するとずっと伏せていたセスの瞳とやっと目が合い、セスは一瞬だけ固まった。
だが、固まったのはほんの一瞬だけで、セスはすぐに冷静さを取り戻し、嬉しそうに笑った。
「…一緒にこの屋敷を散策しましょう、ステラ様。アナタの為に用意していたものが実はたくさんあるんです」
私をまっすぐ見つめる空色の瞳にはもうあの仄暗さはない。
私はおそらくきっとセスの安定と信用を勝ち取ったのだ。



