セスの精神を安定させ、帝国外へと安全に逃げる。
その為に私はなるべくセスの要求を受け入れながらも、かつてセスと共に過ごしたリタ代役時と変わらぬ態度で平和な日常を過ごせるように心がけた。
そしてセスに全てを支配されるここでの生活ももう一ヶ月が過ぎようとしていた。
「ただいま戻りました」
「おかえり、セス」
窓の一切ない、この部屋唯一の出入り口である扉からセスが今晩も少しだけ疲れた様子で現れる。
私はそんなセスをいつものように笑顔で受け入れた。
「今、夕食を作りますからね。今日は市場で新鮮な野菜を手に入れたんです。あ、あと苺も見つけたので買いましたよ」
「本当?新鮮な野菜ならサラダにして食べたいな。苺はそのままでも最高だけど生クリームでも食べたいかも」
「ふふ、かしこまりました。ではそのように致しましょう」
セスと他愛もない会話をしながらも私はセスを何となく観察する。
ここ一ヶ月ほどでセスは間違いなく安定していた。
最初こそ笑っているが、目が笑っていないという表情ばかり浮かべていたセスだったが、最近はきちんと心から笑えている気がする。
私のリクエストを聞き「少々お待ちくださいね」と微笑むセスは私がよく知っているセスそのものだった。
ここまで落ち着いたのなら次の段階に行ってもいいのかもしれない。
もちろん、セスの様子を見ながらになるけれど。



