悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜






「ありがとう、キース。あっちで落ち着いたらまた連絡するよ」

「うん。健闘を祈るよ」



笑顔でキースにお礼を言う私にキースが少しだけ微笑む。
こうして私は一ヶ月お世話になったキースの家を後にした。
あとはいよいよ国境付近の検問所に行き、合法的にこの帝国から出るだけだ。




*****




幼い12歳の私を探す者は多い。
一ヶ月前、私を必死に探していたのはフランドル公爵家だけだったが、今では何故かそこに皇太子であるロイも加わり、私は今、帝国中で探されている存在になっていた。
少なくともマルナの街中ではあちこちにあの指名手配書のようなものが貼られており、それを目にする度に私は毎回苦笑していた。

キースが1人で街に出て帰ってくる度に、半笑いで「君、いつから犯罪者になったの?街中に君の指名手配書もどきがあったけど?」と言っていたが、街を歩いてみてやっとその意味を理解した。

だが、逆に言ってしまえば、19歳の、本来の姿の私を探す者はルードヴィング伯爵家くらいしかいない。
しかもルードヴィング伯爵家はユリウスやロイのように大々的に私を探してはいなかった。あくまで秘密裏に探しているようで、セスを中心に誰かを探している、という噂が一時的に流れていたが、その程度だ。
なので幼い私の姿で移動するよりも、今の姿で移動する方がずっと移動しやすかった。