ここに長居するわけにはいかない。
今は社交界シーズンなので帝都にほとんどの貴族が滞在している。
つまり伯爵もまだ帝都にいるのだ。
フランドル公爵もルードウィング伯爵も同じ貴族であり、きっと繋がりもある。
伯爵に見つけられるのも時間の問題だ。
私はどうにかして早くここから…いや、せめて帝都から出なければならない。
「ステラ様、お着替えは終わりましたか?難しいようでしたら今からでも私がお手伝いに…」
いろいろと考え事をしていると扉の向こうからメイドのメアリーの心配そうな声が聞こえてきた。
メアリーは私の専属メイドだ。ユリウスが私に気を使ったのか、何故か素性もよくわからない私に初日からつけてきたのがメアリーだった。
全くあの男は本当に何を考えているのかわからない。
私がリタの代役を務め、ユリウスとよく口論していた時も「全く!美しいくせに表情がないから何を考えているのかわかりませんわ!この鉄仮面!」と言っていたが、あれは本心からだった。
鉄仮面とはユリウスのためにある言葉だろう。
「失礼いたします!ステラ様!」
メアリーに返事をせずにいると焦った様子のメアリーがここの部屋の扉を開けた。
返事をしなかったといってもほんの数秒だ。
何分もメアリーを待たせたつもりはない。



