「…今までありがとう、ユリウス」
私は12歳のステラとは違う、大人びた女性の声で小さくそう言うと、ベランダに続く大きな窓を開け、そのままベランダへと飛び出した。
そして目の前にある木に飛び移り、私は公爵邸の外へと出た。
*****
深かった濃紺の星空が薄くなり始める。
もうすぐ夜が明けるのだ。
「はぁ…はぁ…」
私は肩で息をしながらもそれでもその足を止めることなく、ただひたすら目的の場所へと走り続けていた。
目的の場所とはもちろん、帝都の隣町、ユランだ。
ここまでは今まで何度も外出の度にこっそり下見していた安全にそして最短でユランへと行けるルートを選んで進んでいた。
少し向こうを見れば、帝都と同じような街並みだが、どこか古い建物が目立つ場所が見える。
あの街こそ、私が目指しているユランだ。ユランの街までもう目と鼻の先だ。
「…あ、あと少し」
やっと見えてきた街並みに安堵し、走り続けていた足のスピードをゆっくりと落とす。
もうすぐだ。やっとユランに着くんだ。
まずは夜明けを待ってあの小さな銀行へと行こう。
それから300万の全財産を下ろして、帝国外を目指す。
それまでの道のり、これからの生活も300万あればとりあえずは問題ないだろう。



