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「それじゃあ、ステラ、おやすみ」
「…うん、おやすみ」
ユリウスがいつものように冷たい表情のまま私に〝おやすみ〟を口にし、ソファから立つ。
私はそんなユリウスにこちらもいつものように笑顔で〝おやすみ〟を口にした。
今の私は本当にいつものように上手く笑えているのだろうか。ここへ戻ってきてからも私の心はずっとモヤモヤしたままだ。
クラーク邸から帰った後、弱っていたが無事に帰ってきたユリウスを見て公爵邸中の使用人たちは喜び、安堵した。
夫人に至っては安堵しすぎてユリウスの姿を見た瞬間、大粒の涙をポロポロと流していた。
「よかった。本当によかった」
そう何度も言って我が息子を抱きしめる夫人の姿に使用人一同も泣いていた。
そして私も同じ気持ちだった。
ユリウスがちゃんとここへ帰ってこられてよかった。
もし、私があの時公爵たちの会話に気づかなかったら。
もし、私がアリスを疑わなかったら。
もし、公爵が私の話を信じなかったら。
もし、クラーク邸へ行けたとしてもユリウスを見つけられなかったら。
ユリウスは今もあそこであんなふうに囚われたままだったのだ。
天才騎士として名を馳せているあのユリウスが目に見えてやつれ、鉄格子や足枷で物理的に囚われているあの姿を思い出したくなくとも思い出してしまう。



