「お前も人の世話ばっかりしてないで、そろそろ少しは自分のことも考えないと。」


「そのお言葉は耳が痛いですけど、でも、それが私の仕事なんで。」


「そりゃそうだが、でも元カレの面倒まで見てやるのは、いくらなんでも人が良すぎないか?」


斗真の言葉に、彩の表情が少し曇る。


「話を聞いた時には、正直ビックリしたぞ。頼む方も頼む方なら、引き受ける方も引き受ける方だと思ってな。」


呆れた口調で言う斗真。


「でも、それもご縁ですから。それに私としては、大地さんの幸せのお手伝いが出来るのは、嫌なことじゃないですし、むしろ嬉しいですから。」


「瀬戸を振った罪滅ぼしってことか?」


「まぁ、そんなところです。」


そう言って笑顔を浮かべる彩の顔を、斗真は少し見ていたが


「今更だけど・・・お前、なんで瀬戸を振ったんだ?」


と尋ねた。


「えっ?」


「俺も由理佳も、お前たちが付き合った時には喜んだんだ。お似合いだと思ってたから・・・。」


「本当に今更ですね。」


彩は笑う。


「すまん、でもお前から、ちゃんとした理由を聞いてなかったから、ずっと気には、なってたんだ。」


「大地さんは初めて出来た彼氏でした。明るくて、とっても優しくて、カッコよくて。私、いきなりこんな人と付き合えたんだって、本当に有頂天で幸せで。とにかく大地さんに会いたくて、一所懸命時間を見つけ出す。そんな半年ちょっとだったんです。」


「・・・。」


「でもある日・・・私は疑問を持ってしまったんです。『大地さんで、本当にいいの?』って。」


「廣瀬・・・。」


「酷い仕打ちだったと思います。今でも、大地さんには申し訳ないことをしたと思ってます。でも・・・私は自分の心を偽ることが出来なかった。偽って、無理に先に進んだとしても、たぶんその先に幸せな結末はなかったと思います。だから、後悔はしていません。」


「・・・。」


「私、大地さんとのこと、当時の大学の仲間にはもちろん、遥にすら話してないんです。だから、私は未だにみんなには、彼氏いない歴イコール年齢だと思われてて。」


そう言って、一瞬苦笑いを浮かべた彩は、すぐに表情を引き締めると


「あの頃、私は彼とのことを秘密にしなきゃと思い込んでたんです。他大学の人と付き合うなんて、マズイかななんて思っちゃって。でも、確かに厳しい部活でしたけど、別に恋愛禁止じゃなかったし、他大学の人と付き合ったって、怒られる理由なんか1つもなかった。結局、私は大地さんを本当には、好きじゃなかった。だから、大地さんとのこと、周りには知られたくなかったんだと思います。そうじゃなきゃ、やっと私、彼氏出来た〜って、きっと言いまくってたはずですから・・・。酷い女ですよね。」


そう言って、彩はため息をついた。