だいたいは帰り道にコンビニで調達して、自宅で食べるというパタ-ンに落ち着くのだが、この日は空腹に耐えかね、2駅先にファミレスがあるのを思い出し、そこで途中下車した彩。店に入ると日曜のこの時間ということもあり、お客はまばら。


イタリアンハンバ-グセットを注文して、待つこと10分程。ジュウジュウといかにもおいしそうな音と共に、置かれた鉄板を前に


「いただきます。」


小さい声でそう言って、手を合わせて、フォークとナイフを手に取ると、ハンバ-グを一切れ、口に運ぶ。


(おいしい、幸せ・・・。)


思わず顔をほころばせた彩が、そのままどんどんと食べ進めて行くと、瞬く間に・・・と言うのは少し大袈裟だが、サラダ、スープ、更に食後のコーヒ-に至るまで、完食するまで大した時間は必要としなかった。


「ご馳走様でした。」


満足そうな表情で、呟いた彩だったが、ふと目の前に並ぶ空き食器が目に入り、我に返った。


(こんな時間に、ヘビ-に食べちゃいけないのは、わかってるんだけど・・・食欲にはやっぱり勝てません。)


自分に対して、思わず言い訳した後、席を立った彩がファミレスを出て、また駅に向かって歩き出すと、ふと気付くと、少し遠目に自らの職場の横に広がっている、きれいにライトアップされたベイサイドブリッジが見えている。


毎日のように目にしていると、日常の光景となって、いちいち足を止めて、感慨にふけるようなこともなくなってしまっているのだが、今はいつもより少し離れた場所でその光景を見て、彩は思わず立ち止まっていた。


(こうやって見ると、やっぱりきれいだよね・・・。)


このベイエリアの素晴らしい景観が、ホテルベイサイドシティの人気の理由の1つであることは間違いない。そしてその景観に包まれて、今日一組のカップルが新たなスタ-トを切ったのを、彩はプランナ-として見守った。


(いいお式だった。)


そんな満足感が、改めて彩の身体を包む。だが、彩にとってそれは終わりではなく、次の一歩への始まり。明日、いや明後日からはまた新たなカップルとの出会いが待っているはずだ。


(次は、どんな物語が紡がれていくのだろう・・・。)


そんな感慨と期待を胸に歩き出した彩は


(よし。新たな出会いを迎える為に、そして日頃の運動不足解消の為に、明日は久しぶりに弓引きに行くぞ。)


と意気込んでいた。