有終の美を飾った3年生を中心に、賑やかに帰校した尚輝たちを


「お帰り、みんなお疲れ様~。」


彩が満面の笑みで出迎えた。


「コーチ。」


「彩コ-チ!」


彼女の姿を見て、部員たちも相好を崩しながら、駆け寄って行く。


「みんななら絶対にやれると思ってたけど、それにしても全員が予選を通るなんて凄い。私たちの頃じゃ考えられなかったよ。ね、先生?」


「はい。」


興奮気味の彩の言葉に、尚輝も嬉しそうに頷いたが


「よ~し、みんな。お祝いにパッと飲みに行こうか。」


と調子に乗る先輩に


「ちょ、ちょっと、先輩なに言ってるんですか。」


尚輝は慌てて窘める。


「冗談に決まってるでしょ。でもさ、なんかお祝いしないとな・・・。よし、じゃウチのホテルのケーキ、全員にご馳走しちゃおう。」


その彩の言葉に、歓声を上げる部員たち。


「先輩、いいんですか?」


「任せなさい。女子に二言はないって、昔言ったことあったよね、あなたに。」


尚も心配顔の尚輝に、彩は言い切る。


「コーチ、カッコいい~。」


「惚れちゃう。」


「じゃ今度、持って来るからね。」


そんなことを言って来る部員たちに、彩は笑顔で約束する。


「よし。今日はみんな本当にお疲れさん、そしておめでとう。これで解散にするが、帰りにあんまり羽目を外すなよ。」


「はい、ありがとうございました!」


最後の礼をすると、部員たちは学校を後にして行く。


「若いね、みんな。羨ましい・・・。」


賑やかに離れて行く、彼らの姿を見送りながら、ポツン呟く彩。


「まぁ確かにティ-ンエイジャ-には逆立ちしても敵いませんが、それでも俺たちだって、まだまだ若いでしょ。」


それに対して、そんな言葉を返した尚輝の顔を少し見た彩は


「そうだね。じゃ、そういうことにしとこうか。」


そう言って笑顔を浮かべたが、すぐにそれを収めると


「でも、尚輝。」


と呼びかけた。


「はい。」


「ありがとう。」


「先輩。」


「尚輝の指導の賜物だよ、今回の好成績は。OGの1人として、素直に嬉しいし、あなたに感謝したい。本当にありがとう。」


そう言って、彩は尚輝に頭を下げた。そんな彩の姿を照れ臭そうに見ていた尚輝は


「ひょっとしたら、俺・・・先輩の中で少し、格が上がりました?」


と尋ねる。


「えっ?」


「だって、さっきも思ったけど俺、今まで彩先輩に『あなた』なんて呼ばれたこと、なかったから・・・。」


その言葉の後、少し見つめ合った2人。やがて微笑んだ彩の口から漏れた言葉は


「そうかもね。」


だった、しばし訪れる沈黙。そして、それを破ったのは


「ねぇ。花、見に行こうか。」


彩のこのひと言だった。