それからの時間は、あっという間だった。日々の練習に、部員たちは汗を流し、尚輝も精力的に指導を行った。自称「ヒロハヤペア」のコーチ2人も、その輪の中に加わり、特に彩は週1どころか、週に2日の自身の休日に、いずれも来校する熱の入れ方で


「大丈夫ですか?仕事だって大変なのに・・・あんまり無理しないで下さい。」


と心配する尚輝に


「今の3年生と一緒に出来るのは、もう本当にわずかな時間しかない。私がしてあげられることなんて、微々たるものだけど、でも私が来ることで、少しでも彼らの役に立てるなら、こんなに嬉しいことはないんだよ。」


彩は、輝いた表情で答える。


「いろいろあったけど、今、私は充実してる。一度は捨ててしまった大好きな仕事にまた就けて、休みの日には母校に来て、弓道がやれる。こんな毎日が過ごせるなんて、正直思ってもみなかった。だから・・・尚輝と京香ちゃんには、迷惑かけちゃったけど、私は帰って来て、本当によかったと思ってる。」


「それはもう言わない約束ですよ。」


「ごめん・・・。とにかく私は大丈夫だから、心配ご無用ってこと。少なくとも、インハイ予選までは、このまま突っ走るよ。」


「わかりました、先輩について行きます。」


「何言ってるの、顧問はあんたでしょ?」


「そうでした。つい昔のクセで・・・。」


「あのさぁ、一度聞きたかったんだけど。私ってそんなにおっかない主将だった?なんかキノとかにも、今だに恐れられてる感じで、結構ショックなんだけど。」


不安と不満が入り混じったような表情で尋ねる彩に


「怖くて、厳しくて。でも凛々しくて、カッコよくて・・・そしてとてつもなく可愛かったです!」


間髪入れずに尚輝が答える。


「バ、バカ。あんた、何言ってるのよ・・・。」


思わぬ返しをされて、動揺する彩。


「先輩からのご下問でしたので、正直にお答えしました。」


シレッとしている尚輝に


「生徒に聞かれたらどうするのよ、信じらんない。」


そう言い捨てて、慌てて離れて行く彩。尚輝は思わず笑ってしまった。


そして部内選考会を経て、予選出場メンバ-が固まったのは大会一週間前。ヒロハヤとも相談した結果、尚輝は男女とも今年は2チ-ムをエントリ-することにした。これは創部以来初めてのことで


「今年のメンバ-ならいける。全員、自信を持って行け。」


「はい。」


選出されたメンバ-を前に、尚輝は力強く檄を飛ばした。