そんな尚輝に千夏が


「それとも、他に気になる人がいるんですか?」


畳み掛けるように聞くと、尚輝は息を呑んだような表情になる。


「やっぱり、そうなんですね?」


「葉山・・・。」


「京香先生がいなくなると同時に、彩さんが部活に来なくなったって聞いてます。つまり、そういうことなんでしょ?」


「・・・。」


千夏の言葉に、尚輝は俯き加減に視線を逸らす。


「だったら先生も、もう自分の気持ちに素直になって下さい。」


千夏が声を励ますと


「お前に何がわかる!」


キッとした表情になる尚輝。


「えっ?」


「自分の気持ちに素直になれ、なんて簡単に言うな。俺にとって、京香と過ごした10年はそんなに簡単で軽いものじゃない。」


「でも先生は、本当は京香先生より彩さんの方が好きなんでしょ!」


「なに・・・。」


「今、言ったじゃないですか?素直になりたくても京香先生との時間が邪魔してる。私にはそう聞こえましたけど。」


「それは・・・。」


「もう誰も傷付かないなんてあり得ないんですよ!」


「葉山・・・。」


ハッとしたように千夏を見る尚輝。


「私には京香先生の気持ちがわかります。先生が大好きだから、先生が本当に好きな人と結ばれて欲しいんです。悔しいけど、そう思うんです。だから・・・先生は勇気を出して、行動して下さい。自分の気持ちに素直になるって、約束してください。私や京香先生の為にも。」


その言葉を言い終えた千夏を、尚輝は少し見つめていたが


「そのことが言いたくて、今日わざわざ俺を誘ってくれたのか?」


フッと表情を緩めた。


「それは違います。本当にワンチャンあるかなって思ったから、速攻振られましたけど。」


苦笑い混じりで言う千夏に


「ありがとう。」


尚輝は、頭を下げる。


「だから、違いますって。」


「葉山、俺にとって、彩先輩がどんな存在なのか。もちろん京香がいなくなってから、ずっと考えて来たけど、改めて、もう1度ちゃんと自分で向き合ってみる。約束するよ。だから・・・もう少しだけ、時間をくれ。」


そう言って、静かな微笑む尚輝の顔を見た千夏は


「はい、わかりました。」


ホッとした表情を浮かべて、頷いていた。