「転勤があるのは間違いないんだけど、今言われてるのは、西の方っていうだけで、エリアも決定してないし、異動時期もはっきりしなくて。」


「マチヒロの会社は全国規模だから、仕方ないのかもしれないけど、でも随分曖昧な内示なんだね。それじゃ、困っちゃうよね。」


彩は難しい顔になる。


「それともう1つ。」


「えっ、まだなにかあるの?」


「これは浩人のご両親の意向なんだけど、式は地元で挙げて欲しいって。」


と言った遥の顔も難しい表情になっていた。


「彩も知っての通り、浩人の実家は、地元ではそれなりの名士だから、親戚とかも多いんだ。家はお兄さんが継ぐから、浩人は自由にして構わないって言われてるんだけど、ただ式だけは、地元で挙げて、きちんと皆さんに挨拶とお披露目だけはしてくれないと困るって。」


「なるほど、いろんなしがらみがあるんだね。令和の日本にも。」


思わず、そんな言葉が彩の口をついて出る。


「私たちの本音は、当たり前だけど、仕事関係者はみんなこっちだし、友達も地元にいる子より、こっちにいる子の方が多いくらいだから、こっちで挙げたいんだ。まして、せっかく彩がウェディングプランナーやってるんだから、是非彩のお世話になりたいし。」


「遥・・・。」


「でも、今言った通りの事情で先行き全く不透明。せっかく見学に行かせてもらっても、かえって彩の顔を潰しかねないから・・・。」


そう言って、困ったような視線を自分に向けて来た親友に、彩は


「なに言ってるの。」


と力強く言った。


「そりゃ、私にも営業成績はあるし、友達の式も、ちゃんと取れないのかって上から言われちゃうかもしれないけど、それとこれとは話が別。」


「彩・・・。」


「私も同じ地元なんだから、町田家の事情はわかってるつもりだし。でも、それでも私に頼みたいって言ってくれる2人の気持ちが嬉しい。」


その彩の言葉に、遥はパッと表情を明るくする。


「だから、見学には是非来て。精一杯頑張って、いい式になるようにいろんな提案させてもらうから。マチヒロの親に、これならこっちにしようって言わせるくらいに。」


「彩、ありがとう・・・。」


「ううん。だって、私も自分のことのように嬉しいから。」


その彩の言葉に、遥は顔をクシャクシャにして、頷く。


「じゃ、GW中はちょっともう身動き取れないけど、それが過ぎれば調整は可能だと思うから、日程は改めて相談しよう。」


「うん。」


その後、夕食を摂りながら、ふたりの会話は弾んで行った。