もっとも、そう思っているのは、どうやら尚輝1人ではないようで、早くも退部を口にする同級生も出始めていた。


(辞めちまうか・・・。)


そんな思いが、尚輝の胸にも浮かび上がるようになって来ていた。もともと競技そのものに興味があったわけではない。はっきり言って、不純な動機で入部したことは、充分に自覚している。


一方の彩たち上級生たちは、夏に行われるインタ-ハイの県予選を来月に控え、練習に熱が入って来ていた。当然ほとんど別メニュ-で交わることもほとんどない。


(これじゃ、彩先輩とお近づきになるどころの騒ぎじゃねぇよ。)


そうブー垂れながらも、


(だがもし、弓道部を辞めてしまったら、彩先輩と接触する機会なんか、本当になくなっちまうに違いない・・・。)


という思いが、尚輝の足を弓道場に向けさせていた。そしてなんとかチャンスを見つけて、彩に声を掛けては、冷たくあしらわれて・・・そんな日々を送っているうちに、6月の声を聞いた。


その日の練習を終え、尚輝が更衣室に向かおうとすると、先輩達の練習はまた続いていた。なんとなくフラッと弓道場に入ると、普段は、休憩時間や的に向かう順番待ちの時間には、和気あいあいとした雰囲気も漂っているのに、今日はピリピリした空気が流れている。


そして、尚輝の視線は、今まさに矢を放とうと構える、彩の姿に釘付けになった。


彩の弓道に向き合う姿勢は、真摯であり、ひたむきである。それは、見ていればヒシヒシと伝わって来る。息を呑むように、その姿を見守る尚輝の前で、全神経を集中させた彩が、矢を放つ。そしてその放たれた矢は、吸い込まれるように的に命中する。


(すげぇ・・・。)


すると、クルッと的に背を向けた彩とバッチリ目が合う。思わず、笑顔を送った尚輝に、しかし彩はフンッとばかりに視線を逸らすと、順番待ちの列の最後尾に付く。


結局30分程、彩の姿を見つめ続けた尚輝は、練習を終えて、遥と肩を並べて弓道場を出て来た彼女に


「先輩、お疲れ様でした。カッコよかったです。」


興奮気味にそう声を掛けた尚輝。チラリと視線を送った彩は


「そう、ありがとう。」


と無表情ながら、そう答えた。珍しく相手にするんだと、横の遥が思っていると


「ねぇ。」


とこれまた珍しく、彩の方から尚輝に呼び掛けた。