が、気を取り直したように尚輝を見た彩は


「そう。まぁ、どうでもいいけど、弓道を甘く見ないで。」


厳しい口調で言う。


「先輩・・・。」


「君、中学時代部活は?」


「硬式テニス部でした。」


「フーン、一応運動部経験者なんだ。」


「はい。」


「でも女子と一緒だから、チャラチャラと出来ると思ったら、大間違いだから。やってみればわかるけど、弓を引くのにだって、結構な力がいるんだから。まぁ弓道はテニスと違って、なかなかやれる場所も少ないし、中学で弓道部がある学校もほとんどないから、みんなほぼ初心者なんで、その点は安心してもらっていいけど、とりあえず、夏休みに入るくらいまでは、筋トレや基礎練習がメインだから。そのつもりで。」


「はい、ありがとうございます。」


「それじゃ、お疲れ。」


そう言って、歩き出そうとする彩に


「あっ先輩、このあと僕とお茶しませんか?」


と誘いをかける尚輝。だが


「無理。」


と言い捨てるように言うと、彩はそのまま歩き去って行った。


翌日、登校した尚輝に、クラスメイトの西川秀が声を掛けて来た。


「で、脈はありそうなのかよ。」


「そんなのまだわかんねぇよ。」


からかい気味の秀の言葉に、尚輝はややぶっきらぼうに答える。


「それにしても、入学してひと月も経たないうちに、いきなり2年生の教室に乗り込んで、コクって玉砕したと思ったら、全くめげないで、すぐに興味の欠片もない部活に、その先輩に近づきたい一心で飛び込み入部するとはな。大した行動力だ。」


と言った秀の口調は感心してるというよりは、呆れがこもっていた。


「『中学の部活は、内申点上げる為に、嫌々やってただけ。高校に入ったら部活なんかに時間取られないで、思いっきり遊びまわる』って言って、部活のオリエンテ-ションの間、ずっと寝てた奴とは、とても思えねぇよ。」


「居ても立ってもいられねぇんだよ。」


「えっ?」


「とにかく、寝ても覚めても、あの人のことが頭に浮かんで来て、胸が苦しくなるんだ。この自分を気持ちを、先輩に伝えられずにはいられない。先輩に好きな奴がいようと、彼氏がいようと、そんなの関係ない。とにかく俺のハートは一瞬で、先輩に撃ち抜かれたんだ。もうこの気持ちは抑えられねぇ。」


周囲の視線も気にせず、そう熱く語る尚輝。


「なるほどねぇ・・・。」


そんな尚輝の熱量に、秀はやや押され気味に答える。