「追って来たんだね、彼。」


「・・・。」


「そうじゃなきゃ、今になって、わざわざ入部して来ないよ。」


「・・・。」


「彼、本気だよ。」


「遥。」


「えっ?」


「練習始まるから、集中。」


いろいろ言い募る遥に、ピシャリと言うと、彩は弓を手に取る。。


弓で矢を射て、的に当てる。端的に言ってしまえば、弓道とはそう言うスポ-ツだ。しかし、その間にある一連の所作を通じて、心身を磨く「武道」である。


彩が矢を射るべく所作に入る。そしてその彼女の手から、ヒュンという音と共に放たれた矢は、28m先にある、藁で作られた的に見事的中する。ちなみに弓道では、的のどこに当たっても的中となる。真ん中に当たった方が得点が高いということはない。そこが洋弓(ア-チェリ-)との大きな違いの1つだ。


だが、その結果見た彩は、表情も変えずに一礼して、下がって行く。そこには凛々しい弓道部員、廣瀬彩がいた


(カッコいい・・・。)


我が親友ながら、遥は正直にそう思う。普段、どんなにおちゃらけてる人間でも、ひとたび、弓矢を手にして、的を見据えば、その姿は厳かな雰囲気を纏い、凛々しく人の目に映る。だけど、その中でも彩の姿は近寄り難さを感じさせるくらいに凛々しくそして、美しく、遥と言えども、いつものように気軽く声を掛けることは、とても出来なかった。


その日の練習が終わり、道場を出た彩に


「廣瀬先輩!」


と声が掛かる。その方を振り向いた彩の目に映ったのは、予想通り尚輝だった。


「入部しました。改めて、よろしくお願いします。」


そう言って、頭を下げて来た尚輝に


「二階くん・・・だっけ?」


とやや面倒くさそうに言う彩。


「はい。」


名前を呼ばれて、嬉しそうな表情で答えた尚輝に対して


「君と前にどこかで、会ったことあったっけ?」


尋ねる彩は、硬い表情。


「いえ。」


「そうだよね。弓道の経験は?」


「いえ、今まで全然興味もありませんでした。」


「じゃ、どうして入部したの?」


「先輩と・・・お近づきになりたかったからです!」


ためらいなく、そう答えた尚輝に、彩も周囲も一瞬呆気にとられる。