「それなんだけどさ、あの子『先輩』って彩のこと呼んでたから、1年生だよね。タメや先輩ならともかく、入学してからまだ1ヶ月も経ってない新入生がいきなり、見ず知らずの2年生に告白して来るかな?」


「・・・。」


「ひょっとしたら、あの子と彩は、前にどこかで会ってんじゃないの?」


遥は尚も、興味津々といった風情で尋ねるが


「さぁ、全然知らない顔だったな。」


彩は素っ気ない。


「でもあの子、彩の名前知ってたし。」


「そんなこと言われたって、知らないよ。とにかく、いきなりあんなこと言われても困るし、こっちだって対応しようがない。だから、もうこの話は終わり、終わり。」


彩はこれ以上、この話題に関わるのは御免と言わんばかりの態度で言うと


「そんなことより、遥、行くよ。」


と言って、教室を出た。


2人が向かった先は弓道場。昨年はクラスが別だった彩と遥だが、部活を通して、一番の親友になっていた。それだけに今年、クラスが一緒だとわかった時には、手を取り合って喜んだ2人は、今やほとんどの場面で、行動を共にしている。


更衣室で着換え、袴に身を包むと、花の女子高生が、途端に厳かな雰囲気を身に纏う。


2人が道場に足を踏み入れると、既にメンバーの多くが揃っている。


「みんな。」


やがて、主将である3年生の宮田由理佳が、声を掛けて来た。


「始める前に、顧問からお話があります。先生、お願いします。」


高校弓道部の顧問には、競技経験者が驚く程少ない。弓道が野球やサッカー、テニスといった競技に比べて、残念ながら競技人口が少ないことが背景にある。


結果、名ばかりの顧問が増え、ほったらかしにされているという不満を聞くことも少なくないが、今、彩たちの前に立った児玉光雄(こだまみつお)は、現在も弓道教職員協会に所属しており、部員の指導にも熱心な顧問である。


「新入生の部活入部期間は既に終了しているが、本日1名、希望者があったので、入部を許可した。みんなに紹介したいと思う。入って来い。」


その顧問の言葉で、入口に目をやった彩は、次の瞬間、その目を疑った。


(えっ・・・?)


思わず、隣の遥を見ると、やはり驚きを隠せない表情で、こちらを見ている。


「1年B組、二階尚輝です。少し遅れてしまいましたが、本日より入部いたします。よろしくお願いします!」


元気よくそう挨拶して、頭を下げたその少年は


(あの子だ・・・。)


間違いなく、昨日、彩に告白して来たあの1年生だった。