それは、今から9年前に颯天高校の一角で起こった、まさに突然の出来事。


その日の授業を終え、遥と教室を出た彩はその時、進級間もない高校2年生。そんな彼女の行く手に、突如人影が立ちはだかった。はっとして見ると、1人の見知らぬ男子の姿が。何事だろうとやや固まった彩に


「廣瀬先輩!」


少年が大きな声で呼び掛けて来た。


「は、はい。」


その声に、ややたじろぎながら、彩が返事をすると


「俺、先輩のことが好きになりました。付き合って下さい!」


やはり元気のいい声で、そう言った少年は、深々と頭を下げた。


一瞬訪れる静寂。彩はもちろん、周囲にいた面々も、この降って湧いたような告白劇を、唖然とした表情で見つめている。


周囲の注目の中、やがて頭を上げ、真っすぐに彩を見る少年。そして、周囲の視線は当然、今度は彩に集まる。


「ごめん。私、君のこと、名前も何も知らないし・・・だから突然そんなこと言われても、ちょっと無理。」


彩の口から出た返事は、至極真っ当なものだった。ある意味、当然の成り行きに、周囲の視線はまた少年に。彩の返事を聞き、一瞬表情をゆがめた少年は


「わかりました、失礼しました!」


すぐにまた頭を下げると、踵を返し、足早に去って行った。


「なんなの?あれ・・・。」


遥が、そうポツンとつぶやいたのに


「さぁ・・・?」


あまりに突然の出来事に、彩はそう返すのがやっとだった。


だがこの突然の告白劇は、翌日もクラスの話題となり、あの男子の正体を突き止めようと余計なお節介をしようとする動きもあったが


「別に興味ないし、下手に詮索して、面倒臭いことになっても嫌だから、ほっといて。」


と彩が言ったこともあって、少なくとも彼女の周りでは、そんな動きはなかった。


「でも可愛い顔してたし、背もまあまあ高めで、どっちかって言うと彩のタイプだったんじゃない?」


と遥にからかわれるように言われたが


「そうだった?突然のことで、相手の顔、あんまりよく見てなかったし、第一、告白するなら、せめて自分のクラスと名前くらい名乗ってからにしてよって話だよね。」


彩は憮然とした表情で応じる。