「あんた、これからどうするの?」


「どうするって・・・?」


彩の言っている意味がわからず、訝しげに聞き返す尚輝に


「あんたにとって、弓道は私との繫がりを保つための手段だったんでしょ?でも私は、完全にあんたを振った上に、卒部しちゃう。そしたら、あんたにとっては、弓道部にいる意味なんて、もう・・・。」


と問い掛ける彩。


「そうでしたね。」


真っすぐに自分を見ている彩を、尚輝は振り返った。


「確かに、俺にとって弓道は、それ以外の価値なんか、何もなかった。だから、一昨日の試合、俺は最後だと思って、臨みましたよ。」


「尚輝・・・。」


「でも、気が付いたら、今日も俺は弓道場に来てました。それはたぶん・・・まだ彩先輩がいる、それだけが理由じゃないと思います。」


そう答えて、尚輝は改めて彩を見る。


「そっか。それを聞いて安心した。」


「えっ?」


「後任が無事、見つかって。」


「彩先輩・・・。」


「次の主将は尚輝、君だよ。」


「いや、ちょっと待ってください。」


意外な彩の言葉に、尚輝は慌てるが


「尚輝しかいないから。」


1年前、由理佳に言われたのと同じセリフを口にして、微笑んだ彩は


「明日からよろしくね、新主将。じゃ。」


ポンと尚輝の肩を叩いて、歩き出して行った。その彼女の後ろ姿を、尚輝が茫然と見送っていると


「おめでとう。」


と後ろから声が。驚いて振り向いた視線の先には


「菅野・・・。」


京香がいた。


「すごいじゃない、主将なんて。」


「聞いてたのか?」


「うん。悪いけど、全部、ね。」


そう言いながら、近寄って来た京香に


「菅野には、いろいろ応援してもらって、嬉しかったしありがたかった。感謝してる。だけど・・・お聞きの通り、これで全部決着ついたから・・・。」


尚輝は言う。


「二階くんは、本当にそれでいいの?」


「ああ。悔いは・・・ない。」


「そっか・・・。」


尚輝の返事に、頷いた京香は


「じゃ、今度はいよいよ、私の番だね。」


そう言って、尚輝を見つめた。


「菅野・・・。」


その視線に、尚輝は驚いたように、京香を見た。