「ところで、まだバレてないのかよ。お前たちのこと。」


「当たり前だろ。1ヶ月やそこらでバレるようなら、最初から隠すような真似はしねぇよ。」


「それにしてもさ、京香もわざわざ教師になって、彼氏と職場を同じにすることはなかっただろうよ。」


「仕方ないでしょ。美大卒がこっちに帰って来たって、就職先が教員くらいしかなかったんだから。」


からかうような秀の言葉に、京香はムキになって、反論する。


高校を卒業後、地元の大学に進学した尚輝と、東京の美大に進んだ京香。言ってみれば遠距離恋愛になってしまったふたりは、しかしそれを乗り越え、その絆を深めて行った。


そして、大学卒業。教員採用試験に見事合格した尚輝が、母校に着任したのに対し、京香は


「4年間、授業や課題に振り回されて、まだ自分の作品にちゃんと取り組めてない。」


と言って、大学院に進学。院で学ぶ傍ら、大学近くの高校で非常勤の講師も務め出し


(ひょっとしたら、こっちに帰って来ないつもりか?)


尚輝は内心焦っていたが、卒業と同時に帰郷。自分と同じく、母校に就職を決めたのだ。


「驚いたでしょ?」


「驚いたなんてもんじゃない。そのつもりなら、最初から言っといてくれよ。」


「えへへ。サプライズ成功。」


文句を言う尚輝に、京香はいたずらっぽく笑ったものだ。


こうして、同僚になったふたり。


「じゃ、本音は帰って来たくなかったのか?」


秀の問いに


「就職のことを考えればね。あっちにいれば、もう少し選択肢は広がったと思うからさ。でも、院まで行かせてもらって、親には迷惑かけたから、帰って安心させてあげたかったし、それになんと言っても、尚輝がこっちにいるんだから。」


そう言って京香は、はにかんだように横の尚輝を見る。


「尚輝、お前も大したものだ。このじゃじゃ馬を、ここまでしおらしくさせるんだからな。」


「秀!」


京香に睨まれて、首をすくめる秀。相変わらずのふたりの関係性に、尚輝は思わず、笑ってしまう。そうこうしているうちに、料理も揃い、3人の会話は更に弾んで行き


「でも、秀も前に、本当は向こうに残りたかったって言ってたよな。」


尚輝は問い掛けた。