「でもね、秀の言うことも一理あるとは思うよ。」


その日の学校帰り、昼食を摂るためにファミレスに入った3人。食事がひと段落すると、京香が正面に座る尚輝に切り出した。ちなみに秀は当たり前のように京香の横。


(口では苦手とか、うるさい奴とか言ってても、幼なじみはやっぱり気安いんだな。)


それを見て、尚輝は思っていた。


「ただ闇雲に告白しても、廣瀬先輩に『またか』と思われるだけだよ。やっぱりタイミングや雰囲気とかも考えないと。」


「俺だって、それは考えてはいるよ。イブや初詣に誘ったりしたけど、全然・・・。」


そう言って首を振る尚輝。


「そっか・・・確かにイベントの時はチャンスだと思うけど、いきなり初めてのデ-トがそれって、かえってハ-ドル高いかも。」


「そういうもんかぁ・・・。」


京香の指摘に、尚輝は頭を抱えるような仕種になる。それを見て


「でも普段に誘っても、相手にされないんだから、結局ダメってことじゃん。」


思わず当然の感想を述べた秀は


「秀!」


と、京香に睨まれて、首をすくめる。その後、視線を尚輝に戻して


「とにかくさ、恋には駆け引きも必要だと思うよ。」


京香は改めて切り出す。


「駆け引き?」


「そう。真っすぐに告白したり、相手を誘うのは、もちろん悪くはないと思うけど、それだけだと・・・。」


「芸がないってか?」


と懲りずに割り込んでくる秀に、チラッと視線を向けた後


「秀の言い方だと、身も蓋もないけど、でもまぁ、そんな気がするな。」


京香は言う。


「じゃぁ、どうすればいいんだよ?」


当然のように尋ねる尚輝に


「そうだなぁ。例えばさ、押すばかりじゃなくて、たまには引いてみるとか。」


「引く?」


「そう。いつもいつも誘ったりしないで、あえて少し距離を置いてみたらどう?」


「それ廣瀬さんにとっては、願ったりって感じじゃねぇの?かえってせいせいするって。」


「うん・・・なんか秀の言う通りな気がする。」


自信なさげに言う尚輝。


「でもさ、何か変化をもたらさないと、ずっとこのままの気がしない?」


「・・・。」


「思うんだけど、自分が好きな相手が、自分を好きな確率なんて、あんまり高くないんじゃないかな?」


「菅野さん・・・。」


「だから、二階くんの悩みって、たぶん普通の悩みなんだよ。好きな人に振り向いてもらうって、今更だけど、そんなに簡単なことじゃないんだから、いろいろ試してみたらどう?」


不安そうな尚輝を励ますように、京香は笑顔で言った。