季節は、新緑眩しい春。まもなくGWを迎えようとしている4月のとある日曜日、ここ「ホテル　ベイサイドシティ」のブライダルエリアでは今日も慌ただしい1日が始まっていた。


挙式が人々の多くが休日となる土日祝日に集中するのは、自明の理。まして、ベイサイドシティの名が示す通り、海のほとりに建つ人気ホテルの挙式は、10：00、11：30、14：30、17：30スタ－トの4枠が設けられている。


この日、11：30からの枠を担当する入社4年目のウェディングプランナー、廣瀬彩(ひろせあや)は7:30にホテルに入り、オフィスに入ると、すぐにパソコンを開いて、これからの流れを最終チェックしていた。そこへ


「廣瀬さん、おはようございます。今日の新婦様のメイクの追加資料を持ってきました。」


やって来たメイク担当がファイルを差し出して来た。


「ありがとうございます。」


ファイルを受け取りながら、腕時計を確認した彩は


「予定では新婦様はご家族と一緒に間もなくこちらに到着されるはずです。入られましたら、すぐにそちらにご案内しますので、よろしくお願いします。」


メイク担当に念を押すように言った。


「わかりました。では失礼します。」


足早に立ち去って行くメイク担当の後ろ姿を見送った後、彩は席を立つと、窓に広がるベイサイドの景色に目をやる。昨日はあいにく、激しい雨が降っていたが、今朝はオフィスには朝陽が差し込み、見上げれば青空が広がっていた。


（やっぱり、結婚式はこうじゃなくっちゃ・・・。）


そんなことを考えていると、新婦とその家族の到着が告げられ、彩は改めて表情を引き締めるとオフィスを出た。


「おはようございます。お待ち申し上げておりました、本日はまことにおめでとうございます。」


予定通り、式の3時間前に現れた新婦一行に、恭しく頭を下げた彩は


「それでは、新婦様はこちらへ。ご家族の皆様は控室にご案内させていただきます。」


スタッフに家族の案内を指示すると、自らは新婦をブライズル－ムへ先導をして歩き出す。そしてそこで花嫁の準備を見守っていると、今度は新郎とその家族の到着が知らされ、彩はまた出迎えに走る。こうしていろんなところを飛び回って行くうちに、時間は着実に過ぎて行く。