白雪姫の王子様

まず、スケッチブックを開いた。

そこには、いつも雪が描いていた、

青空の絵。

「……全部ほとんど同じじゃねぇか」

思わず、小さく笑ってしまった。

いつから描き続けていたのかは、

わからない。

でも、ページをめくるたびに気づく。

同じように見えて、少しずつ違うことに。

色の薄い空。

滲んだ空。

線が震えている空。

その時の雪の体調や感情が、
そのまま描かれているみたいだった。

ページは、途中で終わっていた。

最後まで、空ばかりだった。

でも、それがきっと、
雪の知っている“外の世界”だったんだろう。

スケッチブックを閉じようとした時だった。

ふと、絵の裏に文字が書かれていることに気づく。

◯今日も何も変わらない一日。

◯今日は不器用そうな男の子に会った。

◯蓮くんと友達になった。

◯蓮くんを好きになった。

雪の日記だった。

毎日、短い言葉だけ。

でも、そこには確かに、雪が生きていた。

ページをめくるたび、初めて会った日のこと。

病室での会話。

イルミネーション。

全部が蘇ってくる。

胸が熱くなる。

「……っていうか、不器用そうってなんだよ」

思わず、口に出してしまっていた。

ページをめくる。

◯今日は莉子と翔くんが来てくれた。

◯みんなで笑った。

◯制服着てみたいな。

◯蓮くん、今日もぶっきらぼう。

◯でも優しかった。

自然と笑ってしまう。

でも、後ろのページへ進むにつれて、
文字が少しずつ変わっていった。

◯最近、少し苦しい。

◯また発作が増えてきた。

◯本当は怖い。

◯みんなともっと一緒にいたい。

胸が締め付けられる。

ページをめくる手が、重い。

◯イルミネーション、すごく綺麗だった。

◯蓮くんが、いっぱい写真撮ってくれた。

◯今日、幸せだった。

◯私、ちゃんと白雪姫になれてるかな。

◯王子様、ちゃんと迎えに来てくれるかな。

その文字を見た瞬間、
病室へ走った日のことを思い出した。

もっと早く行けていたら。

もっと、側にいてやれていたら。

そんな後悔が込み上げる。

でも、次のページを見た瞬間、
俺は息を止めた。

◯蓮くんは、ちゃんと来てくれる。

◯だって、私の王子様だから。

視界が歪む。

雪は、最後まで俺を信じていた。

震える手で、最後のページを開く。

そこには、小さな文字で、

◯今日は幸せだった。

そう書かれていた。

「っ……」

込み上げてくるものを、必死に抑える。

そうしないと、自分が壊れてしまいそうだったから。