白雪姫の王子様

「あなたは……」

雪の母親の目に、涙が滲む。

「雪が生きることを、諦めるの?」

弱々しい声だった。

「違います」

はっきりと、答える。

「雪が、生きたいように生きることを、諦めたくないんです」

「雪は……」

雪の母親は小さく、呟く。

「長く生きることより、好きなことをして生きたいっていうの……?」

涙が、頬を伝う。

「私は、雪の母親なのよ……」

震える声。

「諦めなければ、治るかもしれないじゃない……!」

その言葉は、願いだった。

必死に掴んでいた希望。

「……雪は」

俺は静かに、口を開く。

「とっくに覚悟を決めてました」

「覚悟……?」

「雪は、“やりたいことリスト”を書いてます」

雪の母親が、息を呑む。

「生きてる間に叶えたいことを、たくさん書いてるんだと思います」

驚きと、悲しみの入り混じった表情で、
こちらを見ている。

……やっぱり、知らなかったんだ。

雪のことだ。

きっと、心配かけたくなくて隠していた。

「リストの中身は、俺も見たことありません。でも」

冷たく重い空気の中だったが、
今までの、雪を思い出し、
思わず笑みが溢れてしまった。

「雪は、毎回すごく嬉しそうでした」

カフェで笑ってた顔。

制服姿。

“もっと生きたい”って言った時の顔。

全部、頭に浮かぶ。

「だから――残り時間じゃなくて、雪が、“生きてた”って思える時間にしたいんです」