さてハズレばかりだったわけだし、これでほぼ確定だろうと気を引き締める。
 次は2年2組、立花大樹。私のクラスメイトである。最も確率が高い、と私は思っているのだが、顔はうろ覚え。キンコンカンコンと休み時間を知らせる鐘が鳴り、当人が席にいる姿を横目でみた。文庫本、それも夢十夜(ゆめじゅうや)――夏目漱石を読んでいる、本のチョイスは渋いが、わからなくもない。上までぴっちりと締められたシャツのぼたん。堅物が服を着たという、そんな姿をしているからだ。さりげなく机に向かい、席の前で見下ろした。もちろん真意(しんい)を問うために。

「僕に何か用ですか?」
「……」

 なるほど、絶対に違う。
 絶対に違うが、念のため確認しておこう。
 バシン、と机に白い紙を置いた。

「柳瀬さんへ、って書いてくれる?」
「どうしてですか……白い紙に自分の名前を書けとか怖いんですけど」

 指紋ひとつないメガネをすちゃっとかけなおし、私を見上げ反論した。

「手紙について聞きにきたわ」
「……手紙? 小説の話かなんかですか?」

 ひっかかるどころか、知ってる様子もない。

「ま、あなたじゃないと思ってたわ。ああ、それも面白いけど私は銀河鉄道の夜、の方もいいと思うわ」

 あのラブレターは『俺』と書いてあった。少なくとも彼のように、自分のことを”僕”という男子じゃないと思う。立花大樹は意味がわからないといった表情を浮かべていた。ハズレだ。残念だけれども、一番の有力候補、同じクラスの男子じゃなかった。

「有名ですけど読んだことがないです」
「そう、機会あったらそのうち読んで――あ、そうだ」
 
 私は自席に戻り、カバンから1冊の本を取り出した。そこには『銀河鉄道の夜』の特装版の文庫。

「いいわよ、貸してあげる」
「え、でも――っていうか、なんで持ってるんですか」
「再読しようと思って。読み終えたら返して」
「ありがとうございます……」

 押し付けるようにして、席を立った。ハズレだ、後は誰だろうか。
 じゃあ、誰が。誰が――いや、たった一人だけ残っている。
 
 恐らく、あいつ(●●●)だ。あいつしか残っていない。

 背後に気配を感じ、曲がり角で後ろにいた人物を、待ち伏せる。


 そこで目当ての人物を――その人物の腕を、しっかりと捕まえた。