中村翔太……か。当然ながら、顔を知らない。
昼休憩中の廊下はグラウンドに出る人、手洗い、食堂やらでざわめき、人でごったがえしている。それを押しのけ押しのけ、3年1組になんとかついた。
「うちのクラスに何か用?」
男子がひとり、私の顔を覗き込んできた。廊下でじいっと自クラスを眺めてる女がいたら、そりゃあお前何だよって思うわね。うん、わかる。
「……あなた、中村翔太?」
男子は怪訝な表情を示すと、指を立てて一人の男子を指さした。
「違う。あいつ」
1人の男子は、気づいたのだろう、私を見やった。
「中村翔太、あなたに大事な話があるの」
私の言葉に、クラスメイト全員が『中村翔太』と私を交互に見た。普通の、他の男子となんら変わりない『中村翔太』は、やたらと動揺している。非常に怪しい行動だ。そして彼は教室をぐるりと見渡してから再び私を見た。
「え、俺? 本当に? ってか、あんた誰?」
「名乗るほどのものではないわ。ちょっときなさい、中村翔太」
私の言葉に、口を開いたのは目の前の男子だった。
「この人は2年2組の柳瀬さん」
……この野郎、バラしやがって! と目の前の男子を思わずギロリと睨む。涼しい顔をしていた男子は私の視線をさらりと受け流した。『中村翔太』は、なんだよ、意味わかんない、といいながら気まずそうに教室内を見渡しこちらへ向かう。
「こなけりゃ、こっちからいくけど。あなたにいいたいことがあるの」
私の言葉に、教室内がざわついた。
「俺に何の用が」
「身に覚えないの?」
私の言葉に、再び教室内がざわついた。中村翔太は、顔を赤くしながら、教室内の全員に聴こえるように絶叫した。
「……身に覚えはないけど! 行けばいいんだろ!」
……もしや、私が、『中村翔太』に、告白だとか思われた? どうしようかと思ったが、ひとまず周囲に対して訂正の必要はなしと判断し、そのまま会話を続ける。
「そうだ」と立ち止まり、廊下の目の前の男子を捕まえた。
「あ、あなた。あの女の子の名前は知ってる?」
「山田……さんだけど」
「ありがとう、とても助かったわ」
私たちは人気のない階段の踊り場に着く。用件なら早くしてくれ、と中村翔太はしつこくいってきたので、早々に話題を切り出した。
「好きな子いる?」
私の言葉に、中村翔太は驚いたように目を見開き、口をパクパクとさせている。
「いるの? というか、いるわよね」
「なんで、知って――」
焦っている。
じゃあ、本題へと入ろうか。
「ずばりいうけど、好きな子って、さっきの同じクラスの山田さん?」
「なんで、それを!」
「さっきの教室で話がある、っていったとき、あなた――真っ先にあの女の子のことを見たわ。気のせいかと思ったけど、身に覚えないのか、といった時も、真っ先に山田さんを見てた。つまり、『付き合っている』か、もしくは『誤解をされたくない相手』がいると思ったのよ」
「まじ、かよ……」
「多分、誰も気づいてないし、誰にもいわないから、安心して。それと」
私はポケットからペンを1本だけ取り出すと、階段に落とした。中村翔太はとっさにそれを拾い、「ほらよ」と当たり前のように渡してくれた。いい人物のようだ。
「山田さん、に誤解されたままじゃ可哀そうだから、これでいいわね。『私の大切な落とし物を拾ったから呼び出された』ってことにしておいて」
私の言葉にピンときたようだ。
「確認するけど、戻ったら周りには――”柳瀬の用件は大事なペンを拾ったお礼だった”、っていっておけばいいんだな。いや、そうじゃなくて、結局何の用だったんだ?」
「人を探してたの。でもあなたじゃない」
これで、残すところはあと1人となった。ということは――同じクラスの、立花大樹なんだろうか。
昼休憩中の廊下はグラウンドに出る人、手洗い、食堂やらでざわめき、人でごったがえしている。それを押しのけ押しのけ、3年1組になんとかついた。
「うちのクラスに何か用?」
男子がひとり、私の顔を覗き込んできた。廊下でじいっと自クラスを眺めてる女がいたら、そりゃあお前何だよって思うわね。うん、わかる。
「……あなた、中村翔太?」
男子は怪訝な表情を示すと、指を立てて一人の男子を指さした。
「違う。あいつ」
1人の男子は、気づいたのだろう、私を見やった。
「中村翔太、あなたに大事な話があるの」
私の言葉に、クラスメイト全員が『中村翔太』と私を交互に見た。普通の、他の男子となんら変わりない『中村翔太』は、やたらと動揺している。非常に怪しい行動だ。そして彼は教室をぐるりと見渡してから再び私を見た。
「え、俺? 本当に? ってか、あんた誰?」
「名乗るほどのものではないわ。ちょっときなさい、中村翔太」
私の言葉に、口を開いたのは目の前の男子だった。
「この人は2年2組の柳瀬さん」
……この野郎、バラしやがって! と目の前の男子を思わずギロリと睨む。涼しい顔をしていた男子は私の視線をさらりと受け流した。『中村翔太』は、なんだよ、意味わかんない、といいながら気まずそうに教室内を見渡しこちらへ向かう。
「こなけりゃ、こっちからいくけど。あなたにいいたいことがあるの」
私の言葉に、教室内がざわついた。
「俺に何の用が」
「身に覚えないの?」
私の言葉に、再び教室内がざわついた。中村翔太は、顔を赤くしながら、教室内の全員に聴こえるように絶叫した。
「……身に覚えはないけど! 行けばいいんだろ!」
……もしや、私が、『中村翔太』に、告白だとか思われた? どうしようかと思ったが、ひとまず周囲に対して訂正の必要はなしと判断し、そのまま会話を続ける。
「そうだ」と立ち止まり、廊下の目の前の男子を捕まえた。
「あ、あなた。あの女の子の名前は知ってる?」
「山田……さんだけど」
「ありがとう、とても助かったわ」
私たちは人気のない階段の踊り場に着く。用件なら早くしてくれ、と中村翔太はしつこくいってきたので、早々に話題を切り出した。
「好きな子いる?」
私の言葉に、中村翔太は驚いたように目を見開き、口をパクパクとさせている。
「いるの? というか、いるわよね」
「なんで、知って――」
焦っている。
じゃあ、本題へと入ろうか。
「ずばりいうけど、好きな子って、さっきの同じクラスの山田さん?」
「なんで、それを!」
「さっきの教室で話がある、っていったとき、あなた――真っ先にあの女の子のことを見たわ。気のせいかと思ったけど、身に覚えないのか、といった時も、真っ先に山田さんを見てた。つまり、『付き合っている』か、もしくは『誤解をされたくない相手』がいると思ったのよ」
「まじ、かよ……」
「多分、誰も気づいてないし、誰にもいわないから、安心して。それと」
私はポケットからペンを1本だけ取り出すと、階段に落とした。中村翔太はとっさにそれを拾い、「ほらよ」と当たり前のように渡してくれた。いい人物のようだ。
「山田さん、に誤解されたままじゃ可哀そうだから、これでいいわね。『私の大切な落とし物を拾ったから呼び出された』ってことにしておいて」
私の言葉にピンときたようだ。
「確認するけど、戻ったら周りには――”柳瀬の用件は大事なペンを拾ったお礼だった”、っていっておけばいいんだな。いや、そうじゃなくて、結局何の用だったんだ?」
「人を探してたの。でもあなたじゃない」
これで、残すところはあと1人となった。ということは――同じクラスの、立花大樹なんだろうか。



