石田学は校内で有名なベストカップルだ、この人物は外していいだろう。私はメモ用紙の名前欄にピッと横一文字の赤線を引く。

 あとは4人。全員のクラスもメモしてある。誰であれ、まずは怪しいと思う人物に会ってみないと。小西涼介、という名前には……どこかで聞いたことがあるような。

 2年1組の教室前へとたどり着いた。別のクラスの女子というのはどうも目立つのか、2年1組の生徒たちはチラチラと私を気にしている。扉の近くに座っていた女子に、「小西涼介、って誰?」と小声で尋ねた。女子は不思議そうな顔をした後、とある男子を指さした。

「うわ、イケメン」

 感想で出たのはそれだけだった。
 やたらに女子が群がっているが、背が高いのでよくわかる。

 色素の薄い髪の毛と薄茶色の宝石(ブラウンガーネット)のような瞳。前髪をうっとうしそうにかき上げる仕草に対し、女子はきゃあっと黄色い声援。うん、確かにイケメンでなければ許されない行為だ。まるで周辺に薔薇(ばら)が舞う学園王子サマさながらな、そんな人物が私にご丁寧にラブレターだなんて送るワケがない。とはいえ、せっかくきたのだし念のため、声をかけてみよう。

「小西涼介くん、少し話があるんだけど、無理ならいいわ」 
「秒で諦め早くないか? そりゃ、告白ならお断りだけど」
「私も告白ならお断りなのよ」
「……喧嘩を売りに来たのか?」
「残念だけど安売りしてないの。ほんのちょっと、あなたと話をしたいだけ」

 周りの女性陣を笑顔というべき愛想で追い払うと、私についてこいと(あご)で合図を送られた。周りの女子たちは何事かと見てきたが――まあ大した問題ではない。

 人気のない階段に座り込み、小西涼介は私を見上げた。

「話って?」
「彼女いるの?」
「いない。なんだよ、やっぱり告白じゃないのか?」
「違うわ。じゃあ、好きな子いる?」
「はあ? いない。っていうか、なんでそんなこと、お前にいう必要があるんだよ」
 
 苛立った口調で、彼は私を睨んできた。
 
「……ああ、好きな子がいないなら、別にいいわ。休み時間に悪かったわね、これで私の話は終わったから大丈夫。もし可能なら聞かせて欲しいけど、最近、手紙を送ったことある?」

「ない。話っていうか、これむしろ事情聴取だよな?」

「私は好きな子がいる男子を探してるの。ああ、断じて彼女持ちとかじゃないから安心して。まあ、どのみちあなたじゃない気がしてたけど。気にしないで、他をあたるわ」 

「さっきから意味不明な言動をしてるけど、何が目的なんだ?」
「機密事項なの、ごめんなさいね」

 まあ、どの道、顔面レベル”神”な男子と関わることなど今後ないだろう。この男に話されるたびに背景に花が散っては気が散るわけだし。

「さっきから気になることばっかりいいやがって……回りくどいな。そういうのを狙ってる(●●●●)のか?」 
「別に釣れなくていいわ。そう思いたいなら、そう思ってもらって結構だから」

 謎の言葉を吐き捨ててきたので、小西涼介をその場に置いて階段をかけおり、去っていこうとした瞬間、彼に肩を掴まれた。

「……お前、名前は?」
「ああ、名乗ってなかったわね、柳瀬ゆうか」

 置かれた手をバシンと叩き落とし、先ほどの小西涼介のようにニセの笑顔を浮かべた。眉をひそめられたが、さよなら、といってその場を後にして小西涼介の名前に線を引いた。