警視正は彼女の心を逮捕する

『日菜乃ちゃんを迎えにきた。今、第一閲覧室にいる』

 鷹士さんからのメッセージだった。
 瞬間。
 ぶわっ、と室内中に花が咲き乱れたかと思った。
 慌てて回りを見直す。
 ……もちろん、花一輪落ちてない。
 ハッと気づく。

「返事しなくちゃ!」

 携帯を構えて、画面に文字を打ち込もうとする。

「うわわっ」

 焦ったのと、手が震えたので携帯を落としそうになる。

「すぐ支度します!」

 なんとか打ち、返した。

 うちの美術館の展示時間は十時から二十時まで。
 学芸員さん達は展示開始前から出勤する早番と、展示後に退社する遅番組がいる。

 私達、修復部は九時から十八時まで。
 自主的に早出残業してはいる。
 けれど、十八時過ぎていたからタイムカードを押すことができる。

 てがけている修復品が傷つかないように処置をした。

「焦らない」

 転んだりして、美術品に瑕疵を与えないよう丁寧に、でも極力急いで部屋を出た。

 館内を走ってはいけない決まりはない。
 でも、あまりに格好悪いから、可能な限りの早足で更衣室へ飛び込む。

 白衣を脱いでジャケットを羽織り、お昼ご飯を食べたときに剥げてしまった口紅を塗り直す。

 通用口から出て、一般客出入り口へと向かう。
 気が逸る。

 鷹士さんが待っているんだから!